頭の中がざわつく夜に。産業医が教える「問い」の力

「また同じことで悩んでる…」ミーティングの後、ひとりで反省会をしてしまう夜はありませんか。頭の中で同じ言葉がぐるぐる回って、結論も出ないまま朝を迎える。そんな相談を、産業医面談で本当によく受けます。

こんにちは、産業医として働きながら2児を育てているえりぼです。

医学的な視点とコーチングの知識、そして温泉療法(湯治)での回復体験を組み合わせて、頑張りすぎる働く女性のための「休み方」と「考え方」を発信しています。

この記事では、なぜ「話を聞いてもらう」だけで心が軽くなるのか、そして今日からひとりでもできる「自分への問いかけ」のコツをお伝えします。

「聞いてもらう」だけで心が軽くなる理由

コーチングの現場でも産業医面談の現場でも、相談者が話し終えた瞬間に「あ、なんかスッキリしました」と言う場面によく出会います。話す前は「モヤモヤ」としか言えなかった感情が、話しているうちに「本当は上司にこう伝えたかった」というはっきりした言葉に変わっていく。

これは、頭の中だけで考えていると同じ思考のループから抜けられないのに対して、声に出して誰かに聞いてもらうことで、自分の言葉を一度外側から眺め直せるからだと言われています。これをオートクラインと言います。

脳内の情報を整理する行為そのものに、感情を落ち着かせる働きがあるのです。実際、コーチングを継続的に受けている人ほど「気づいたら答えは自分の中にあった」と話す場面が多いのも、この仕組みで説明がつきます。

産業医面談でよく聞く「頑張り屋の沼」

面談をしていると、今月だけで「休日も仕事のことが頭から離れない」という相談が3件続く、といったことが珍しくありません。

共通しているのは、真面目で責任感が強く、周囲からも頼られている人ほど、この沼にはまりやすいという点です。

「サボってはいけない」「もっとできるはず」という声が頭の中で鳴り続け、休んでいるはずの時間も心はずっと仕事モードのまま。子どもと公園にいても、頭の半分は明日の会議のことを考えている。そんな状態が続くと、寝ても疲れが取れない、休日の終わりが憂うつ、といった不調につながっていきます。厄介なのは、本人が「自分は大丈夫」と思い込みやすいことです。

不調のサインは、周りより先に自分自身の思考のクセに現れます。

質問ひとつで景色が変わる「問い」の作り方

コーチングで大事にされているのは、答えを教えることではなく「良い問い」を投げかけることです。

たとえば「なぜできなかったのか」ではなく「次に同じ場面が来たら、何を試してみたいか」。過去を責める問いから、未来に向かう問いに変えるだけで、同じ出来事への向き合い方がまったく変わります。「なぜ」という問いは原因探しにはなっても、そこで思考が止まり、自分を責めるループに入りやすいのに対し、「何」という問いは自然と次の一歩に意識を向けさせてくれるのです。

たとえばプレゼンで失敗したとき、「なぜ準備不足だったんだろう」と考え続けると、自己嫌悪だけが積み重なります。でも「次の準備で、何を変えられるだろう」と問い直すと、頭の中に具体的な行動リストが浮かび始めます。同じ出来事でも、問いの形ひとつで見える景色がまったく違うのです。

今日からできる、自分に問いかける習慣

これは他人からの問いかけでなくても、自分自身に対して使うことができます。

ポイントは、「なぜ」ではなく「何」で始めること。

「なぜ私はいつもこうなんだろう」ではなく、「今、私は何を一番大事にしたいんだろう」と聞き直してみる。

それだけで、責める思考から選ぶ思考に切り替わっていきます。

慣れないうちは、スマホのメモアプリに「今日の問い」として書き出しておくのもおすすめです。夜、反省会が始まったタイミングで見返すだけでも、思考の流れが変わっていくのを感じられるはずです。一週間続けるだけでも、自分がどんな場面で「なぜ」に偏りやすいかが見えてきます。

頑張り屋さんほど、自分を責める問いを無意識に繰り返しがちです。

まずは今夜、頭の中で反省会が始まったら「なぜ」を一度だけ「何」に言い換えてみてください。それだけで、思考の出口が少し見えてくるはずです。

完璧に切り替えられなくても大丈夫。「言い換えようとした」その一歩が、すでに変化の始まりです。